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けさのゆき

今朝の雪

宮本 百合子

「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,936 字 · 24 页

青空文庫

表面に波立ったところのないそれらのたよりは、いつも峯子の心に不思議な作用を及ぼした。峯子は、その手紙をよみ、くりかえしまた読んでいると、いつも心が落ちつけられた。正二が無事であるとわかったからというだけでなかった。手紙にこもっている沈着な柔軟さには、どれだけの精神の包括力や堅忍や洞察や自分への思いやりが裏づけられているかということを感じずにはいられなかった。正二の手紙から息ぶいて来るそれらの感銘は、ひとりでに峯子が自分の感情を持ってゆく、その持ちかたに影響した。峯子もだんだん、留守の正二に向って迸る自分の激情に我ながら足をとられなくなり、その心の波濤をいつくしみながら、正二への手紙には、日々の出来ごとを細かく面白くつたえつつ、そこに自分達をあらわしてゆくすべを学びはじめた。

峯子はそのことを深くふかくよろこびとした。恋しいひとに、あなたが恋しいとばかりしか書けないとしたら、それは何と味気なかろう。愛す、愛すと、紙が黒くなる迄かいたとして、それで心の生きた響きがどこにあらわされよう。いろいろなことをして、いろいろなことを思って、生きて動いて暮している、その人を互にいつくしむからには、互いに生活の姿をうつし合えないで、どうして溶けあってゆけるだろう。