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ぶっぽうそうちょう

仏法僧鳥

斎藤 茂吉

「時事新報」1928(昭和3)年1月4日、5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,351 字 · 11 页

青空文庫

この仏法僧鳥は高野山に啼く霊鳥で、運好くば聴ける、後生の好くない者は聴けぬ。それであるから、可なり長く高野に籠ったものでも、ついに仏法僧鳥を聴かずに下山する者の方が多い。文人の書いた紀行などを読んでも、この鳥を満足に聴いて筆をおろしたものは尠いのであった。

私等は奥の院の裏手に廻り、提灯を消して暗闇に腰をおろした。其処は暗黒であるが、その向うに大きな唐銅の鼎があって、蝋燭が幾本となくともっている。奥の院の夜は寂しくとも、信心ぶかい者の夜詣りが断えぬので、燈火の断えるようなことは無い。また夜籠りする人々もいると見え、私等の居る側に茣蓙などが置いてある。私等は初めは小声でいろいろ雑談を始めたが、時が段々経つに従って口数が減って行き、そこに横になってまどろむものもあった。

『こう開化して来ては三宝鳥も何もあったものじゃないでしょう』

『第一、電車の音や、乗合自動車の音だけでも奴等にとっては大威嚇でしょう』

『それに、何処かの旅団か何かの飛行機でもこの山の上を飛ぶことはあるでしょう』

『いよいよ末法ですかね』

『それに山上講演のマルキシズムと、先刻の女中の、院化はんも来なはるとで攻め立てられては三宝鳥も駄目ですよ』