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しゃぼてんのはな

仙人掌の花

山本 禾太郎

「猟奇」1932(昭和7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,282 字 · 19 页

青空文庫

「おかえり」

「おかえりなさいまし」

兄の着替えを手伝ながら姉は、

「明日、閑さんと私を、伊切の浜へ連れて行って下さいね」

「それもいいな、しかしもう日中は少し暑くはないかな……。それは、そうと閑枝、お前弥生軒で写真を写したそうだね」

「ええ、一寸今日、あの前を通ると写して見たくなって……」

「今日電車の中で、弥生軒のおやじに会ったら、『お嬢さんを撮らして貰いました』と云って喜んでいたよ、しかし此辺の写真屋は、とても下手だからなア」

食事のために、兄夫婦が下へ下りてゆくと、閑枝は、机の下から手紙を出して見た。

なんでもない手紙だが、閑枝の自殺の機会を奪ってしまった。読みかえして見ると、その手紙からは、病苦になやむものの、淋しさは感ぜられるが、どこかにまた、生のよろこびを歌っているようにも思われた。しかしそれよりも、此手紙の主が何人であろうか、と、云う好奇心が第一に起るのであった。

(二)

其あくる日は、兄夫婦と共に、伊切の浜へ行って見た、京都と云う海のない都会に育って、海と云えば大阪の築港より知らぬ閑枝に取っては、日本海に向って立った感じは、あまりに雄大すぎた。