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れいじょうアユ

令嬢アユ

太宰 治

朋友佐野君学业不佳,立志当小说家,却整天悠然自得下围棋、钓鱼。太宰治以幽默笔触描绘这位爱摆文人架子的友人,令人忍俊不禁。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,736 字 · 12 页

青空文庫

かれが伊豆に出かけて行ったのは、五月三十一日の夜で、その夜は宿でビイルを一本飲んで寝て、翌朝は宿のひとに早く起してもらって、釣竿をかついで悠然と宿を出た。多少、ねむそうな顔をしているが、それでもどこかに、ひとかどの風騒の士の構えを示して、夏草を踏みわけ河原へ向った。草の露が冷たくて、いい気持。土堤にのぼる。松葉牡丹が咲いている。姫百合が咲いている。ふと前方を見ると、緑いろの寝巻を着た令嬢が、白い長い両脚を膝よりも、もっと上まであらわして、素足で青草を踏んで歩いている。清潔な、ああ、綺麗。十メエトルと離れていない。

「やあ!」佐野君は、無邪気である。思わず歓声を挙げて、しかもその透きとおるような柔い脚を確実に指さしてしまった。令嬢は、そんなにも驚かぬ。少し笑いながら裾をおろした。これは日課の、朝の散歩なのかも知れない。佐野君は、自分の、指さした右手の処置に、少し困った。初対面の令嬢の脚を、指さしたり等して、失礼であった、と後悔した。「だめですよ、そんな、――」と意味のはっきりしない言葉を、非難の口調で呟いて、颯っと令嬢の傍をすり抜けて、後を振り向かず、いそいで歩いた。