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イタリアのことう

伊太利亜の古陶

宮本 百合子

「中央公論」1924(大正13)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,477 字 · 31 页

青空文庫

日下部太郎は来客で応接間にいた。

みや子は居間の六畳で炬燵に当りながら、高畠夫人宛の手紙を書いていた。

彼女は、無断で良人が昨日子爵家に行ったのを知ると、ひどく不安な感情に襲われた。彼女は、

「そう云って下されば私の名刺も持って行って戴いたのに……」

と良人をせめた。が、彼女の真の心掛りはそれではなかった。沼津の話はまだ自分と夫人との間に閃いた沈黙の感じ合に過ぎなかった。良人が言葉に出して何を云わないでも、昨日と今日、彼だけが夫人の目前に現れ、自分と夫人との心の糸を遮ったことは、みや子にこのましくなかったのである。

彼女は、廊下で応接室に行こうとする良人を引とめて訊ねた。

「あなた、きのういらしったとき沼津のこと何ともおっしゃいませんでしたろうね」

彼は、立ち止ろうともせずに云った。

「云えるものかね」

けれども、彼女は気がすまなかった。彼女は居間に来て榛原の書簡箋を繰りひろげ、芳しい墨をすり流した。そして徐ろに一昨夜の礼から、筆をかえして今度の慶び、人の親の心、自分達の誠心を書きすすめた。彼女は調の高い自分の文章に酔った。彼女はいつか自分がこれを受取って読む高畠夫人の身にまでなり、眼をうるませて筆を運んだ。