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へいけがに

伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集

岡本 綺堂

岡本綺堂『伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:平家蟹、青蛙神、人狼、五色蟹、木曽の怪物、蟹満寺縁起、怪談劇、小坂部姫、小坂部伝説、江戸の化物。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 页

青空文庫

唯それだけでござりましたか。」

「そうじゃ。そなたには判らぬか。」

「判りませぬ。わたくしはお前さまのような博学の歌よみではござりませぬ。」

「博学……。」と、小坂部は暗い中で男を睨んだ。「ほんにわたしは博学じゃ。兼好の御坊に一度逢うたら、そなたを驚かすような博学の才女になった。そなたもこれから双ヶ岡に毎日通うて、つれづれ草の作者になりゃれ。」

「わたくしが徒然草を書きまするには、武士を罷めて遁世せねばなりませぬ。」と、采女は笑った。

「遁世もよかろう。」と、姫も笑った。「兼好の御坊も先刻いうていたが、その時こそわたしも正真の横笛じゃ。時頼殿の庵室へ朝な夕なに押し掛けて、いつまでも悟道の邪魔をして見しょうぞ。」

「それは迷惑。では、兼好にもならず、時頼にもならず、やはり今までの本庄采女で、いつまでも御奉公いたしまする。」

「それじゃ。それで無うては男の約束が反古になる。忘れまいぞ。」

このなまめかしい対話を妨げるように、馬の音が俄かにうしろから近づいて来たので、二人は急にふり向くと、暗い中から一人の侍が鹿毛の馬にまたがって急いで来た。彼は枯れた茅をたばねて松明の代りに振り照していた。