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「のぶこ」について

「伸子」について

宮本 百合子

「長篇小説」1937(昭和12)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,881 字 · 4 页

青空文庫

「伸子」は、一つの境遇の垣は一生懸命に破ったが、その垣から出て次に女友達と暮すようになる、それだけでは、「伸子」の疑問も人間完成の要求も本質的には達せられず、結局、面は違うが、同じ小市民的層の内輪をめぐっていることになる。作者は当時、その微妙な要点を洞察するだけの客観的な社会性を自身の現実観察の眼に具えて居なかった次第でした。

しかし、この作品は私の作家的生涯に大きい意味を持っています。千枚近い長篇を熱心に書き通したことは作家としての技術を習熟さすためには大変に役に立った、この作品が比較的好評であったこともあって、それから後いろいろな短篇中篇を書きましたが、どんな題材でも当時の私が書こうとした範囲のものでは一応小説として読ませるような技術がつきました。所謂腕が少しは出来たのであったが、このことが「伸子」を単行本にするために書き直しかけた頃から私の心に深い疑いを与えるようになりました。らくにいろいろ書け、あんまり悪口も言われなくなって来た。一つの作品から一つの作品への間に、生活上では格別の進歩もないことが分っているのに、作品だけは書けばそれなりに通用する。