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さど

佐渡

太宰 治

「公論」1941(昭和16)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,270 字 · 23 页

青空文庫

ごはんを食べてしまって部屋に一人で端座していると、さむらいは睡魔に襲われるところとなった。ひどく眠い。机の上の電話で、階下の帳場へ時間を聞いた。さむらいには時計が無いのである。六時四十分。いまから寝ては、宿の者に軽蔑されるような気がした。さむらいは立ち上り、どてらの上に紺絣の羽織をひっかけ、鞄から財布を取り出し、ちょっとその内容を調べてから、真面目くさって廊下へ出た。のっしのっしと階段を降り、玄関に立ちはだかり、さっきの番頭に下駄と傘を命じ、

「まちを見て来ます。」と断定的な口調で言って、旅館を出た。

旅館を数歩出ると私は、急に人が変ったように、きょろきょろしはじめた。裏町ばかりを選んで歩いた。雨は、ほとんどやんでいる。道が悪かった。おまけに、暗い。波の音が聞える。けれども、そんなに淋しくない。孤島の感じは無いのである。やはり房州あたりの漁村を歩いているような気持なのである。

やっと見つけた。軒燈には、「よしつね」と書かれてある。義経でも弁慶でもかまわない。私は、ただ、佐渡の人情を調べたいのである。そこへはいった。

「お酒を、飲みに来たのです。」私は少し優しい声になっていた。