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さど
佐渡
「公論」1941(昭和16)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,270 字 · 23 页
けれども船室の隅に、死んだ振りして寝ころんで、私はつくづく後悔していた。何しに佐渡へ行くのだろう。何をすき好んで、こんな寒い季節に、もっともらしい顔をして、袴をはき、独りで、そんな淋しいところへ、何も無いのが判っていながら。いまに船酔いするかも知れぬ。誰も褒めない。自分を、ばかだと思った。いくつになっても、どうしてこんな、ばかな事ばかりするのだろう。私は、まだ、こんなむだな旅行など出来る身分では無いのだ。家の経済を思えば、一銭のむだ使いも出来ぬ筈であるのに、つい、ふとした心のはずみから、こんな、つまらぬ旅行を企てる。少しも気がすすまないのに、ふいと言い出したら、必ずそれを意地になって実行する。そうしないと、誰かに嘘をついたような気がして、いやである。負けるような気がして、いやである。ばかな事と知りながら実行して、あとで劇烈な悔恨の腹痛に転輾する。なんにもならない。いくつになっても、同じ事を繰り返してばかりいるのである。こんどの旅行も、これは、ばかな旅行だ。なんだって、佐渡なんかへ、行って来なければいけないのだろう。意味が無いじゃないか。
私は毛布にくるまって船室の奥隅に寝ころびながら、実に、どうにも不愉快であった。