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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

無論まだ犯人は発見されないのであろう。

病室に這入って見ると、弘一君は、まだ青白くはあるが仲々元気な様子で、諸方から送られた花束と、母夫人と、看護婦にとりまかれていた。

「アア、松村君よく来てくれたね」

彼は私の顔を見ると、嬉し相に手を差出した。私はそれを握って恢復の喜びを述べた。

「だが、僕は一生びっこは直らないのだよ。醜い片輪者だ」

弘一君が黯然として云った。私は答える術を知らなかった。母夫人は傍見をして目をしばたたいていた。

暫く雑談を交していると、夫人は外に買物があるからと云って、あとを私に頼んで置いて、席をはずしてくれた。弘一君は、その上に看護婦も遠ざけてしまったので、私達はもう何を話しても差支えなかった。そこで、先ず話題に上ったのは事件のことである。

弘一君の語る所によると、警察では、あれから例の古井戸を浚って見たり、足跡の靴足袋と同じ品を売った店を検べたりしたが、古井戸の底からは何も出ず、靴足袋はごくありふれた品で、どこの足袋屋でも日に何足と売っていることが分った。つまり何の得る所もなかった訳である。

波多野警部は、被害者の父が陸軍省の重要な人物なので、土地の有力者として敬意を表し、度々弘一君の病室を見舞い、弘一君が犯罪捜査に興味を持っていることが分ると、捜査の状況を逐一話して聞かせてさえくれ