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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
警部はチラと私の顔を見て、さも磊落に笑って見せたが、その実腹の中ではひどく不快に思っている様子だった。
「何もそんなことを、あなたが御心配なさるには及びませんよ。それにはちゃんと警察なり裁判所なりの機関があるのですから」
「イヤ、御立腹なすっちゃ困りますが、僕は当の被害者なんだから、参考までに聞かせて下すってもいいじゃありませんか」
「お聞かせすることが出来ないのです。というのは、あなたはまだ明瞭になっていない点ばかりお尋ねなさるから」警部は仕方なく笑い出して「足跡の方も目下取調中なんですよ」
「すると確な証拠は一つもないことになりますね。ただ黄金狂と金製盗難品の偶然の一致の外には」
弘一君は無遠慮に云ってのける。私は側で聞いていてヒヤヒヤした。
「偶然の一致ですって」辛抱強い波多野氏もこれには流石にムッとしたらしく「あなたはどうしてそんな物の云い方をするのです。警察が見当違いをやっているとでも云われるのですか」
「そうです」弘一君がズバリととどめをさした。「警察が琴野光雄を逮捕したのは、飛んでもない見当違いです」
「何ですって」警部はあっけに取られたが、併し聞きずてにならぬと云う調子で「君は証拠でもあって云うのですか。