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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
御承知の通り洋館の廊下は一方口だし、電燈もついている。甲田君の目を掠めて逃げることは全く不可能です。隣室の志摩子さんの部屋もすぐあなた方が検べたのですから、迚も隠れ場所にはならない。つまり、理論で押して行くと、この事件には犯人の存在する余地が全然ない訳です」
「無論私だってそこへ気のつかぬ筈はない。賊は母屋の方へ逃げることは出来なかった。従って犯人は外部からという結論になった訳ですよ」
と、波多野氏がいう。
「犯人が外部にも内部にもいなかった。とすると、あとに残るのは被害者の僕と最初の発見者の甲田君の二人です。だが被害者が犯人である筈はない。どこの世界に自分で自分に発砲する馬鹿がありましょう。そこで最後にのこるのは甲田君です。二から一引くという算術の問題はここですよ。二人の内から被害者を引去ればあとに残るのは加害者でなければなりません」
「では君は……」警部と私が同時に叫んだ。
「そうです。我々は錯覚に陥っていたのです。一人の人物が我々の盲点に隠れていたのです。彼は不思議な隠れ簑――被害者の親友で事件の最初の発見者という隠れ簑に隠れていたのです」
「じゃ君は、それを初めから知っていたのですか」