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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

随ってその恩人の子の甲田君に並々ならぬ好意を示す訳である。これらの事情は私も予て知らぬではなかった。

「だが、あの爺さんは、ただサックが落ちていたからといって、どうしてそう簡単に甲田を疑ってしまったのでしょう、少し変ですね」

波多野氏は流石に急所をつく。

「イヤ、それには理由があるのです。その理由をお話すれば、自然甲田君の殺人未遂の動機も明かになる訳ですが」と弘一君は少し云い悪く相に話し始める。

それは一口に云えば、弘一君、志摩子さん、甲田君の所謂恋愛三角関係なのだ。ずっと以前から、美しい志摩子さんを対象として、弘一君と甲田君との間に暗黙の闘争が行われていたのである。この物語りの最初にも述べた通り、二人は私などよりも余程親しい間柄だった。それというのが父結城と父甲田とに久しい友人関係が結ばれていたからで、随って彼等両人の心の中の烈しい闘争については私は殆ど無智であった。弘一君と志摩子さんが許嫁であること、その志摩子さんに対して甲田君が決して無関心でないこと位は、私にもおぼろげに分っていたけれど、まさか相手を殺さねばならぬ程のせっぱつまった気持になっていようとは、夢にも知らなんだ。