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よゆうのことなど

余裕のことなど

伊丹 万作

「新映画」1944(昭和19)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,707 字 · 8 页

青空文庫

といつてこのたびの合戦にしかるべき馬も召し連れず、おめおめ人に手がらを奪われるのは口惜しい。ええままよ! 御勘気をこうむらばこうむれ。手がらの一つも立ててのちにお詫びの申しようもあろうと腹を決め、出陣の夜のどさくさにまぎれて――」

「盗んでのけたか?」

「うむ、盗んでのけた!」

「はははは、なあんだ。そんなことなら我らが一足さきに盗めばよかつた。ははははは――」

もちろんこれは四郎のうそで、彼はちやんと頼朝からもらつてきているのだが、源太のただならぬ顔色を見ると同時にさつそく気転をきかして脚色をしてしまつた。しかし、源太はあくまでも源太だから悪く気をまわしてそれを疑つたりはしない。四郎の一言で今までの低気圧がたちまち雲散霧消して、光風霽月、かんらかんらと朗らかにうち笑つて別れてしまう。まことに男ぼれのする風格である。これほどの源太を、いよいよ先陣あらそいとなると、またもや「馬の腹帯ゆるみて見ゆるぞ」などと一度ならず二度までもだまして平気でいられるとしたら四郎という人間はよほど度しがたい。しかも宇治川の先陣といえば佐々木一人がいい子になつてしまつているが、源太は磨墨のような第二級の馬を宛てがわれながら、実力において優に佐々木を引き離していたのだ。