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さくしゃのことば〔『ひ だいいちぶ』〕
作者の言葉〔『火 第一部』〕
「火 第一部」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年5月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 827 字 · 2 页
日本に戦争があってくれれば――私は二十年前から、そう考えていた。小説家としての私は、私の存命中に戦争に遭遇したいということを、半ば漠然と、しかし、半ば明確に、希望していたことは否定できない。
スタンダールなどを読むたびに、私だったら、戦争をこんな風に書きはしないだろうと考え、なんとかして存命中に戦争にお目にかかりたいと思ったのだ。
人間は平和を愛す動物でもあるが、葛藤のさけがたい動物でもある。人間の本性は葛藤の場にあらわれ、平和はそのあとの結論として出てくるにすぎないものだ。
個人同志の争いよりも、戦争は、人間の本性をもっと露骨にさらけだす。外交の謀略にくらべれば、個人同志の謀略などは問題にならない。個人は法律や義理人情や、いろいろのキヅナによって本性の露出に束縛を加えられているが、国家のうける束縛は軽微で、勝者は万能でもあり、国家の名に於てなされる陰謀は、個人の陰謀よりも人間色が濃厚なのである。
私は人間を書きたいのだ。私のあとう限りの能力によって。そのために、戦争が見たかった。他人の録した戦争ではなく、私自身の目で戦争を見て、私自身の知りうる人間の限界まで究めたかった。