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かじつ

佳日

太宰 治

「改造 第二十六巻第一号」改造社、1944(昭和19)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,912 字 · 30 页

青空文庫

大隅君は、なかなか起きない。十時頃、私は私の蒲団だけさきに畳む事にした。大隅君は、私のどたばた働く姿を寝ながら横目で見て、

「君は、めっきり尻の軽い男になったな。」と言って、また蒲団を頭からかぶった。

その日は、私が大隅君を小坂氏のお宅へ案内する事になっていた。大隅君と小坂氏の令嬢とは、まだいちども逢っていないのである。互いの家系と写真と、それから中に立った山田勇吉君の証言だけにたよって、取りきめられた縁である。何せ北京と、東京である。大隅君だって、いそがしいからだである。見合いだけのために、ちょっと東京へやって来るというわけにも行かなかったようである。きょうはじめて、相逢うのだ。人生の、最も大事な日といっていいかも知れない。けれども大隅君は、どういうものか泰然たるものであった。十一時頃、やっとお目ざめになり、新聞ないかあと言い、寝床に腹這いになりながら、ひとしきり朝刊の検閲をして、それから縁側に出て支那の煙草をくゆらす。

「鬚を、剃らないか。」私は朝から何かと気をもんでいたのだ。

「そんな必要も無いだろう。」奇妙に大きく出る。私のこせこせした心境を軽蔑しているようにも見える。