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しゅんかん

俊寛

倉田 百三

「新小説」1919(大正8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页

青空文庫

康頼 それは及びもつかない願いでございます。ここからいちばん近い薩摩の山が、糸すじほどに見えるところまで行くのでも、どんな速い船でも二、三日はかかると言いますから。

成経 でも船の姿がほんのちょっとでも見えるとわしには希望の手がかりがつくような気がします。

康頼 それで毎日毎日海ばかり見ているのですか。

成経 十日に一度くらいは白帆のかげが見られます。でもはれた日でないと雲がかかって見えません。だからしけの日はわしにとって実に不幸な日です。朝起きて見て雲が晴れていると、あゝ、きょうもまた浜辺に立って船の見えるのを待とうと思って希望がわきます。

康頼 希望という言葉はほんとうにわしたちにとってありがたい、けれど身をきるような響きを持って聞こえますね。

成経 希望、そうだ希望だ。船の姿はわしの一縷の希望だ。だってそれででもなくて何をたのしみに生きるのだろう。もしも何かの不思議であの遠くを通う船がこっちにやってくるかもしれない。

康頼 それは神仏の力でなくてはとてもできることではありません。

成経 それであなたは毎日卒都婆をつくって流すのですか。

康頼 きょうでもう九百九十五本流しました。