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しゅんかん

俊寛

倉田 百三

「新小説」1919(大正8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页

青空文庫

俊寛 (苦しそうに)その正義の観念の上にはっきり立っていられなくなりだしたのがわしの苦しみなのだ。いかなる困苦と欠乏とに悩もうとも自分は正しきものである! かく考えることによってわしは自分の不幸を支えていた。しかしわしはそれがあやしくなりだした。わしは勢いに巻き込まれたのだという気がする。他人の欲望――というよりも、むしろ無始以来結ぼれて解けない人間の怨讐の大渦のなかに巻き込まれたのだという気がする。わしたちがもしことを起こさなかったらだれかがきっと起こしたろう。われわれはただ選ばれたのにすぎない。三界をさまようている怨霊につかれたのにすぎない。

康頼 あなたは自分でつくりだした恐ろしいまぼろしで自分を苦しめていられるのだ。

俊寛 わしはわしのしぶとい性質を呪う。しかしわしはだめだ。わしは人間の悪が根深い根深いものに見える。二人や三人の力で抵抗しても何の苦もなく押しくずされるような気がする。わしの父、父の父、またわしのあずかり知らない他人、その祖先、無数の人々の結んだ恨みが一団になって渦巻いている。わしはその中に遊泳しているにすぎない。わし自身の欲望はその大いなる霊の欲望に征服される。