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しゅんかん

俊寛

倉田 百三

「新小説」1919(大正8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页

青空文庫

わしの魂は鎌首をもたげていつもうろうろしている。心の座が定まらない。わしは失われる人間なのか。地獄におちる人間なのか。(ほとんど慟哭に近いため息)あゝ。

康頼 (傍白)あゝ何という不幸な目つきだろう。暗い影が一ぱいさしている。

三人沈黙。山鳴りいよいよ激しくなる。

成経 あゝまた山が荒れるな。

康頼 明日はいよいよ雨だな。(空を仰ぎ嘆息す)あのしつこい。退屈な。

成経 (力なく)明日はしけだ。船の姿も見られぬわい。

俊寛 (山のほうを見る)あゝ。あの山くらいいやな山はない。まるでわしたちを呪ってでもいるようだ。(ふるえる)わしの魂の来世の行く先を暗示してでもいるようだ!

康頼 おゝ。神々よ。(ひざまずく)やわらぎたまえ。

三人沈黙。も一度激しき山の鳴動。その後を単調な弾力のない波の音ひびく。

――幕――

第二幕

第一場

第一幕と同じさびしき浜辺。熊野権現の前。横手に貧しき森。その一端に荒き丸太にてつくれる形ばかりの鳥居見ゆ。

第一幕より二年後の春の暮れ。

康頼 (浜辺に立って海を見入る)あゝ、この離れ島にも春が来たのか。海の色も濃くなってきた。このふくれるように盛りあがって満ちてくる潮の香の悩ましさ! わしはこの島の春がいちばん苦しい。