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しゅんかん
俊寛
倉田 百三
「新小説」1919(大正8)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页
わしの郷愁を堪えがたいほど誘うから。乏しい草木も春の装いをしている。わしは昨日森の中を終日花を捜して歩いた。都にあるような花は一つもなく、皆わしの名を知らぬ花ではあったけれど、それでもわしに春のこころを告げてくれた。交野や嵐山の春を思えばたまらない。桜の花のなかに車をきしらせた春を思えば。つんだ花を一ぱい車の中にまいて、歌合わせをして遊んだ昔の女たちを思えば。わしはむしろ死を願う。彼の女らは皆わしに好意を持っていた。わしはやさしくて趣味がすぐれていたから、わしがたわむれに袖を握って言い寄った時に、あの機知のある歌をつくってわしをたしなめた美しい藤姫はどうしたろう。(間)あゝ、わしの幸福は過ぎてしまったのだ。(浜辺を歩む)何というさびしい春だろう! きょうもまた砂浜を走って波とたわむれて遊ぼうか。(汀をつたう)あゝ浜千鳥よ。わしの思いをお前が故郷にはこんでくれたら!
成経 (叫びながら登場)餓鬼だ。これほどあさましくなれば申し分はない。
俊寛 (手を振りつつ成経を追うて登場)待て。あなたはまちがえている。もしあなたの獲物なら、わしはあえて取ろうとは思わない。