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しゅんかん

俊寛

倉田 百三

「新小説」1919(大正8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,192 字 · 88 页

青空文庫

そしてそのほうがかえって幸福かもしれないと。けれど浜辺に立ってたまさかに遠くの沖をかすめて通る船の影を見ると、わしには再び希望が媚びるように浮かんでくるのです。わしをからかうように、じらすように、幸福をのせてゆく船、やがて恋しいふるさとの岸辺に着く船、疲れた旅人はあたたかい団欒に加わるうれしさに船を急がせているのだろう。

康頼 (顔をおおう)妻や子のことを考えるのは恐ろしい。

成経 わしの子はもう髪を結うほどになっているはずです。別れる時に三つだったから。乳母の六条の膝にのって、いつも院の御所に出仕する時と同じように、何もしらないで片言を言ってわしに話しかけていました。門の外にはいかめしく武装した清盛の兵士らがわしの車を擁して待っていた。彼らのある者は剣や槍で扉をこわれるほどたたいて早く早くと促していた。妻はまっさおな顔をしてふるえていた。わしの袖をつかんで、おゝ妻は妊娠だったのだ。わしは無礼な野武士らの前にひざまずいて、乞食のごとくに哀願した。ただ出発をほんの五分間延ばすことを。ただ一口妻をはげます言葉をかけてやるために、そして伜の頭髪を別れのまえにも一度なでてやるために!