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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
玄関に出た賀来子の顔を見るなり、「実は賀来子さん、あんたに正直に答えてほしいことがおますねん。女の一生のことですよって、嘘いわんといとくれやすや。あんたの血統のことで一寸人からきいたことがおますねん。あんたのお父さんは――」
終いまでいわさず、賀来子は、
「そうです。そうです」と叫んだ。捨鉢な調子であったから、政江は何かぎょっとした。稍震えた。
「矢っ張りそうでっか。それに違いおまへんな。ほんまにそうでんな。そうでっか。考えさしてもらいまっせ。主人と相談さしてもらいまっせ」
政江は興奮の余り、便通を催した。彼女は急いで帰宅した。その夜権右衛門は政江の口を通し千恵造に賀来子を離縁せよと申しつけた。千恵造ははなはだ煮え切らぬ態度を示した。それでも男かと極言された。が、翌日千恵造は男である所以を示した。千恵造と賀来子は駆落した。伝三郎がそれと知って梅田の駅へかけつけ、餞別に三十円の金を与えた。そのことが知れて、彼は権右衛門から出入を禁止された。
これは伝三郎には相当な打撃だった。もとの寿司屋の出前持ちから今では相当な銅鉄取引商人にはなっているものゝ、彼は酉年生れの派手な性質で金で面を張るのが面白いまゝに浪費が多く、纏った正金がなかったので、一万二万という大きな買ものにはどうしても兄の資本に頼る必要があったからだ。