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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
初乃は、皆んなが先刻から数の子ばかりを酒の肴にしていたのをちらと想い出したので、ナマコの三杯酢をこしらえたら喜ぶだろうと思った。伝三郎にのますべき塩水のことが一寸忘れられた。――
「良え物がおました」
ナマコの皿を持って部屋に戻ると、伝三郎が、
「何をさらしてた、今迄。廻しの女郎みたいに出て行ったら一寸やそこらで帰って来ん」
「…………」
弁解しようと思ったが初乃は止した。伝三郎は少し耳が遠いので、納得させるには大声を出さねばならぬ。叱られて大声でもない訳だ。
「後家の婆みたいにこせ/\出しゃばんな。大体、おん者は――」
胸が苦しくなったので、伝三郎は小言は後廻しにして反吐を吐きに便所に立った。初乃がペタ/\後に随いて行った。
ピアノの音がしている。政江は、音で千満子だと分った。眼を細めた。伯爵家との縁談もそろ/\本調子に成りかけている。正月というものは何となく良いものだと思った。ふと、千恵造の事が頭に浮んだ。伝三郎夫婦が部屋に戻って来たのを機会に政江は切り出した。
「ほんまに、何でんな、こないして、兄弟が集ってお正月するいうのは良いもんでんな」
「そうやのし。