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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

わけても上品たる可き女がどっかりと座るなどとは、何れ人の眼によくは見えないのだ。

権右衛門は政江を撲った。ざっと十何年か振りである。春松などは微笑を禁じ得なかった。

「おん者らに何権利があるんなら、千恵造のことが気に喰わんなら、わしの弟のことが気に喰わんなら、さっさと出て行ってもらおう」

「あっ」という様、政江は身震いを始めた。彼女の様子は正視するに忍びないものがあった。大袈裟にいうと、ウェーヴした髪の毛が更に大きく波打った。こういう言葉に経験の多い伝三郎の妻は、こういう時政江がどんな態度を示すか見物であると固唾をのんだ。市治郎の妻は、政江を慰めるために今日一日を費す腹をきめた。男たちは、権右衛門の顔を頼もしげに見上げた。就中、市治郎、伝三郎、三亀雄にとっては、問題は自分らの弟の事である。兄弟愛の発露を控目にしてよいということはないのだ。春松は、権右衛門なるかなと思った。之まで権右衛門が政江の尻に敷かれていることを大変不満に思っていたのだ。尻に敷かれていればこそ金も出来るのだ、との処世術など彼の与り知らぬ所である。

政江は何ごとかを叫びながら部屋を出て行った。