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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
間もなく夜店出しを止めることにした。その時の想いが直接の原因だった。もう一つには、同業の者を観察して、つく/″\嫌気がさしていた。鯛焼饅頭屋は二十年、鯛焼を焼いている。一銭天婦羅屋は十五年、牛蒡、蓮根、コンニャクの天婦羅を揚げている。鯛焼が自分か、自分が鯛焼か、天婦羅が自分か自分が天婦羅か、火種や油の加減をみるのに魂が乗り移ってしまう程の根気のよさよりも、左様に一生うだつの上りそうにもない彼等の不甲斐無さが先ず眼につくのだった。八月の下旬だった。夏ものゝ扇子がもう売れる筈もなかった。売れ残りの扇子を問屋にかえしに行くと、季節も変ったし、日めくりをやってはとすゝめられたが、断った。「では、新案コンロは如何だす。弁さえ立てば良え儲けになる」断った。「人間、見切りがかんじんです。あかんと思うたらすっぱり足を洗うのがわしの……」持論にもとづいたのだ。
伝三郎と二人で借りていた玉造のうどん屋の二階をひき払って、一泊二十銭の千日前の安宿に移った。うどん屋の二階に居れば、階下の商売が商売故、たまには親子丼、ならいゝが酒もとる。借りの利くのを良いことにして量を過すのがいけないと思ったのだ。