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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
その時、附合いに放蕩したが、想えば女の肌に触れるのは一年半振りのことだ。どんな芸者だったか、たしかに印象浅からぬものがあったが忘れてしまった。それより、古川の抱いた芸者の顔に記憶がある。花子に似ていたからだ。酔っぱらった古川が、尻をまくりふんどしを外して、乱舞しながらその妓に悪戯するのを、見るに忍びぬと辛い気持だった。商談が大切だと、辛抱して調子を合わせていたものの。
その後、古川が故買の嫌疑で拘引されたときいて、その時の溜飲が下がった。が、旬日を出でずして、自分にも呼び出しがあった。古川の「市電もの」売買に関係してゞはなかろうかと蒼くなった。溜飲が下るどころではない、こっちも危いのだと、女のことに拘泥っていゝ気になっていた自分の甘さを固くいましめた。警察の呼び出しは、しかし、自転車の鑑札並に税金のことだった。ほっとし、以後、税金は収めることにした。自転車はその頃雇った春松の使うものであった。屑屋をはじめてから一年足らずで、もう雇人を使う身分になった。現金と、品物を合わせて五百円近くの金があった。煙草一本吸わなかったのだ。十六の春松がませて、こっそり女郎買いに行くのを見ると、心そゝられぬこともなかったが、女の肌ざわりよりも紙幣の肌ざわりの方がよかった。