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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
季節外れや走りの鰯をたべたがるからだ。政江の苦心とは少々違うのである。もう一つ彼女が誇って良いのは、その後、権右衛門の弟たちが兄のお蔭で商売が出来る様になった時、彼等に資本を貸すと、必ず目立たぬ程度に利子をとる様に権右衛門を強制したことである。目立たぬというのは、その利子の取り方が貸金の何分というのでなく、その貸金を資本に儲けた額の何分というのである。儲かる見込の無い時は無論貸さない。確実で、普通の利子より多くとれるのだ。三亀雄はいざ知らず、伝三郎など、見栄をはって儲けを誇張する癖があるから、随分損な勘定だと、時々伝三郎の妻はこぼしたものだ。誰でも人に好かれたいものだから、こういう政江のやり方は、容易に実行出来るものではない。夫の義弟達の上前をはねて憎まれるのも皆夫の為を想うからだ、と堅く腹をくゝっていたなればこそではないか。
こういう政江を権右衛門は多としていた。権右衛門の偉さの一つは、「差出がましゅうございますが――」という政江の意見に抗わなかったことである。政江としても、やり易かった訳だ。
が、政江の回想では、この事がいちばん辛かった事として泛んで来る。