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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

の手を使った。市治郎、伝三郎、三亀雄などは、はじめ、この「談合とり」で金を作っていたのだ。権右衛門の様に銅鉄売買をする甲斐性はなし、たゞ兄のおかげで入札名儀だけを貰って体裁だけの空入札をし、談合の口銭を貰っていたのだ。彼等がそれでたとえ一万円の金を作るにしても、権右衛門や政江が苦心してこしらえた百円の金の値打もないと、政江は思うのだった。

が、政江は、春松の苦心を忘れている。例えば春松の醜く押しつぶされている右の手の親指のことは、彼女の回想には泛んで来ない。――春松は、権右衛門が落札した銅鉄品の引取に出張する時には、常に同行した。落札品の看貫の際、会社側の人の眼をかすめて、看貫台の鉄盤の下に鉄製の小さな玉を押しこむのが彼の役目である。その装置をすれば、百貫目のものが六十貫にしか掛からぬのだ。ある時、監視人があやしんで、看貫台の上に乗ってみようとした。自分の体重なら、ごまかしは利かぬ筈だ。春松は慌てゝ、玉を抜こうとした。その途端に監視人が台の上にのったので、彼の手は挟まれてしまった。おまけに、続いて、三、四十貫の銅線が看貫台に積み上げられた。春松の顔はみる/\真蒼になった。