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やすきちのてちょうから
保吉の手帳から
「改造」1923(大正12)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,771 字 · 18 页
武官はパンを頬張ったなり、苦しそうに笑っていた。
大浦は保吉も知っていた。守衛は何人か交替に門側の詰め所に控えている。そうして武官と文官とを問わず、教官の出入を見る度に、挙手の礼をすることになっている。保吉は敬礼されるのも敬礼に答えるのも好まなかったから、敬礼する暇を与えぬように、詰め所を通る時は特に足を早めることにした。が、この大浦と云う守衛だけは容易に目つぶしを食わされない。第一詰め所に坐ったまま、門の内外五六間の距離へ絶えず目を注いでいる。だから保吉の影が見えると、まだその前へ来ない内に、ちゃんともう敬礼の姿勢をしている。こうなれば宿命と思うほかはない。保吉はとうとう観念した。いや、観念したばかりではない。この頃は大浦を見つけるが早いか、響尾蛇に狙われた兎のように、こちらから帽さえとっていたのである。
それが今聞けば盗人のために、海へ投げこまれたと云うのである。保吉はちょいと同情しながら、やはり笑わずにはいられなかった。
すると五六日たってから、保吉は停車場の待合室に偶然大浦を発見した。大浦は彼の顔を見ると、そう云う場所にも関らず、ぴたりと姿勢を正した上、不相変厳格に挙手の礼をした。