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しゅぜんじものがたり
修禅寺物語
岡本 綺堂
「文芸倶楽部」1911(明治44)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,737 字 · 26 页
かえで とは言うものの、きのうまでは盆休みであったほどに、きょうからは精出して働こうではござんせぬか。
かつら 働きたくばお前ひとりで働くがよい。父様にも春彦どのにも褒められようぞ。わたしはいやじゃ、いやになった。(投げ出すように砧を捨つ)
かえで 貧の手業に姉妹が、年ごろ擣ちなれた紙砧を、とかくに飽きた、いやになったと、むかしに変るお前がこのごろの素振りは、どうしたことでござるかのう。
かつら (あざ笑う)いや、昔とは変らぬ。ちっとも変らぬ。わたしは昔からこのようなことを好きではなかった。父さまが鎌倉においでなされたら、わたしらもこうはあるまいものを、名聞を好まれぬ職人気質とて、この伊豆の山家に隠れ栖、親につれて子供までも鄙にそだち、しょうことなしに今の身の上じゃ。さりとてこのままに朽ち果てようとは夢にも思わぬ。近いためしは今わたしらが擣っている修禅寺紙、はじめは賤しい人の手につくられても、色好紙とよばれて世に出づれば、高貴のお方の手にも触るる。女子とてもその通りじゃ。たとい賤しゅう育っても、色好紙の色よくば、関白大臣将軍家のおそばへも、召し出されぬとは限るまいに、賤の女がなりわいの紙砧、いつまで擣ちおぼえたとて何となろうぞ。