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しゅぜんじものがたり
修禅寺物語
岡本 綺堂
「文芸倶楽部」1911(明治44)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,737 字 · 26 页
いやになったと言うたが無理か。
かえで それはおまえが口癖に言うことじゃが、人には人それぞれの分があるもの。将軍家のお側近う召さるるなどと、夢のようなことをたのみにして、心ばかり高う打ちあがり、末はなんとなろうやら、わたしは案じられてなりませぬ。
かつら お前とわたしとは心が違う。妹のおまえは今年十八で、春彦という男を持った。それに引きかえて姉のわたしは、二十歳という今日の今まで、夫もさだめずに過したは、あたら一生を草の家に、住み果つまいと思えばこそじゃ。職人風情の妻となって、満足して暮すおまえらに、わたしの心はわかるまいのう。(空嘯く)
(楓の婿春彦、二十余歳、奥より出づ。)
春彦 桂どの。職人風情とさも卑しい者のように言われたが、職人あまたあるなかにも、面作師といえば、世に恥かしからぬ職であろうぞ。あらためて申すに及ばねど、わが日本開闢以来、はじめて舞楽のおもてを刻まれたは、もったいなくも聖徳太子、つづいて藤原淡海公、弘法大師、倉部の春日、この人々より伝えて今に至る、由緒正しき職人とは知られぬか。
かつら それは職が尊いのでない。聖徳太子や淡海公という、その人々が尊いのじゃ。