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はいゆうりんり

俳優倫理

岸田 国士

「演劇映画研究所での講義」1940(昭和15)年4月23日開始

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,412 字 · 104 页

青空文庫

恰もいい役者がいい芝居をしているのを楽しむように、その俳優に会っている間は、相手の人間は楽しい。現にそういう印象を味ったことが度々私はある。ところが一歩退いて考えて見ますと、そういう態度で人に接している俳優が一旦俳優であることの必要が少しもないような場合、果してそれを押し通して不都合はないか。普段その人を俳優として見る時ならば、非常に魅力のあるその人の態度なり、応待の仕振りなり、或は生活の仕方なりが逆に不愉快なものになった経験を私は持っている。さっき云ったジャン・ジャック・ルソーの如き思想が生れるのは、実は俳優というものは多少いつでも「お芝居」をしているものだという、そういう基礎観念に基いているのです。俳優というものは、人に会っても、どこかにその舞台の上である役を演じているような、そういう意識があるものだ、こういう基礎観念があるからこそ、俳優というものはどこか信用ができぬ、油断がならぬという考え方が生れるわけです。

しかし果してそれが俳優全体であるかというと、決してそうでないということも、私は一方で証明できます。一方にどういう人がいるかというと、舞台の上では立派な役者が、平生は殆ど役者であるということがわからないような生活、態度で、役者であるという意識が殆どないような風に見える。