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けんこうさんだい
健康三題
岡本 かの子
はつ湯「レッェンゾ」1935(昭和10)年1月号、春の浜別荘「週刊朝日」1935(昭和10)年3月31日、ゆき子へ「令女界」1935(昭和10)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,542 字 · 7 页
彼女は見つめて三昧に入り、ぶるぶると身ぶるいさえすることがあった。私はこれを思春期の変態の現われじゃないかと嫌な気がしたが、そうではないらしかった。健康なものを見て、眼から生気を吸い込もうとする衰亡の人間の必死の本能だった。私が運動を終ると、あえぐものが水を飲んだときのように彼女は咽喉を一つ鳴らし「もうもう本当にいい気持でしたわ」と襟元を叩いた。
二週間ほどの滞在中一度だけ私は娘を散歩に連れて出てやった。日の当る砂丘の蔭に浜防風が鬱金色の芽を出していた。娘は細い指先でそれを摘まみ集めながら私にいった。「ねえ、お姉さま。わたくしいつお姉さまのように活々した女になって、恋が出来るのでしょうか」私は答えた。「ばか、恋はうかうかしてしまってから気が付くもんだよ。前にかれこれ考えるものじゃないよ」娘は、はーと吐息をついた。私は焦立っていった。「自分の事ばかり気苦労してないで、向うをご覧。海があるだろう。富士があるだろう。春じゃないか」旧正月を祝うとて浜に引揚げられた漁船には何れもへんぽんとして旗が飜っていた。砂丘の漁夫の車座から大島節も聞えた。私たちは別荘へ帰ってその夜の晩飯には、娘の摘んだ浜防風と生のしらすと酢のものにしたのを食べた。