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にせけいじ

偽刑事

川田 功

「新青年」1926(大正15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,368 字 · 15 页

青空文庫

私は何もそんな覚えはありませんし、こんな人から調べられる理由はないんですの。夫れが立派な刑事さんとか巡査さんとか云うんなら何ですけど、此人は只云い掛りでも云って、お金でも取ろうと云うんでしょう……」女の流暢な言葉は上手の演説よりもなだらかに滑り出て、息をも継がせない勢であった。夫れに構わず巡査は彼の方へ向き直った。

「君は一体何者だッ」巡査は訊くのでなくて叱るのであった。慄え切った彼には直ぐに返事が喉へ塞がった。

「初め私立探偵だなどと云ってましたが、了いには警視庁の刑事だなんて人を脅かして名刺を見せましたけど、刑事とも何とも書いて無いんですの。偽刑事が人を罠に陥れようと云う悪企みなんですわ……」

彼女が横取りして喋舌り続けた。彼は忍術か何かで消えたかった。其儘消えて無くなって了っても好いと思った。

「貴女に訊いて居るんじゃない」巡査は女を窘めた。而して再び同じ問いを彼に発した。

「私は……私は別に何でもないんです。只彼の店に行って偶然此お方を見たんです……」

「偶然だなんて皆嘘なんです。私が停車場で省線電車を降りた時から、私の後を跟け覗って来たんです。そして探偵だの刑事などと云って……」