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にせけいじ

偽刑事

川田 功

「新青年」1926(大正15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,368 字 · 15 页

青空文庫

彼は只、誰もが彼女の遣った行為に気付かずに居て呉れと心に念ずる丈けであった。

「見よ、あの通り彼女の顔は晴やかに輝いて居るではないか。あの通り美しく無邪気で天使の様に尊いではないか」彼は心の中で呟いた。

事実、彼女は何のこだわりも無く、自然過ぎる様な楽しい態度を示して其処の卓を離れた。彼は次に起る事が何であるかを想像する力を失って、手品を見せられて居る人の様な眼を以て彼女に近付いた。と、彼女の持って居る反物の包紙は、封緘紙が外れて居る事に気が付いた。恐らく未だ糊が生々しい時に外したのであろう。而して今引抜いた半襟が今に此中に巧みに入れられるであろう。彼は夫れに気が付いた時、一種の興味さえ起って来るのであった。寧ろ彼女の成功を讃美したい様な気持にさえ成って来た。彼女は、婦人用便所と札を掲げた方へ悠々と這入って行った。

彼は嘗て新聞で見た事があった。夫れは、こうした大きなデパアトメントストーアーで、頻々と起る万引の中で、婦人は大抵反物類を窃取するが、之れを持ち出す前には便所に行って始末すると云うのであった。これを思い出すと又しても浅間しいと思う気持に成った。