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びぜんてんいちぼう
備前天一坊
江見 水蔭
「現代大衆文学全集」平凡社、1928(昭和3)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,511 字 · 25 页
けれどもまたその後から、しかし、お綾は無類の美人だ。あれと一夜語り明かして見たい。そうした若い者の情に燃えて、抑えかねてもいるのであった。
この道は又別なものという証拠は、現に聖賢の道に深入りして四角張ってのみいられる池田新太郎少将に見られるのだ。その裏面において、侍女を懐妊させたという秘事さえあるのだもの。ましてや我等凡夫に於てをやなんど、そんな勝手な考えが忽ち持上って、矢張お綾が給仕に来ると、どうも冗談口を利かずには済まされぬのであった。
秋には近いがまだ却々に暑かった。奥二階で駒越左内奥野俊良の二人と、朝日川の鮎を肴に散々酒を過した金三郎。独り離れの隠居所にと戻った。蚊いぶしの煙が早や衰えていた。
ここへ母親お幸に突きやられて、娘のお綾が蚊帳を吊りに来た。
「おう、お綾。蚊帳を今から吊られては暑苦しゅうてどうもならぬ。まァまァそれよりも話して行ったが好い。今宵は又しても風が少しも無い。眠うなるまではここにいて、相手してくれやらぬか」
「はい」
逃げ出そうとすれば庭木戸の傍に母親が隠れて頑張っている筈。それを突破して逃げる程のそれだけの勇気も出せぬので、お綾は縁側に手を支いたまま、モジモジして控えるのであった。