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そう

僧

小川 未明

「新小説」1910(明治43)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,206 字 · 21 页

青空文庫

人々は今更の如く顔を見合った。

死んだ人は、五十五の男だ。彼は長らく踏切番を務めていた。北の海岸から走って来た電信柱は高低に南へと連っている。彼は、鈍色の光線が照り返っているレールに添うて淋しい野中の細道を見廻った時、彼の水腫のした体は、紺の褪めた洋服を着て、とぼとぼと歩くたびに力の入っていない両手は、無意識に動揺した。

怪物が叫いて、静かな、広い野を地響を打て来た時、眠っている草、木、家は眼醒めた。黄色な窓から頭を出している者で、踏切番の小舎の前に立て白い旗を出していたこの男に眼を止めたものがあろう、或者は、黙って見て過ぎた。或者は唾を吐いて過ぎた。中には哀な老人だ。何様暮しをしているものだろうと考えながら過ぎたものもあろう。

男は、余り口数をきかぬ性質であった。長らく中風に罹っていて左の手と耳が能く働らかなかった。家に居ると、何という木か知らぬが、赤い実の生っている植木鉢を日当に出して水をやっていた。この男の死ぬ前の日もこの赤い実の生っている木に水をやっていたのを見たものがある。

男は、どんよりと曇った朝、近傍の川に釣に出かけた。青い水は足の許まで浮き上っていた。