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そう

僧

小川 未明

「新小説」1910(明治43)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,206 字 · 21 页

青空文庫

青い木の葉が、ぼんやりと夕暮の空気の中に浮き出ていた。

娘は、まだ十八九の頃は、物思いに沈んだことが多かった。その頃は、赤い色を懐かしく思った。また折々子供の時分に聞いた三味線の調子を思い出して、耳に、戦い付くその怨めしいような歌の声を考えた。

「何処へ、あの三味線は行ったろう。」と探して見た。けれど遂に見付けられなかった。

その頃は、晩方、森に来て啼く鳥の声を聞き、青い空を見、月の光りを見ると、海を見たいと思ったこともあった。また或時は誰人かに待たれるような心地がした。

今は、身に白と黒の色があるばかりで、赤も青も、紫もない。もはや昔のように黒い家の窓から外を覗いて、虚空に細かな縞を織るように風に動いている森を見て空想に耽るようなことがない。心は冷たい石となってしまったかと思われる程、身形に構わなくなった。色の青白い顔に根の弛んだ髪は解けて肩のあたりまで散りかかっている。身には女らしい赤や、紫の色は着いていなかった。女は稀れに窓から顔を出して夕空を覗うことがあるけれど、それがために何物をか恋い、憧がれてほっと顔を赤くするようなことがない。ただ冷かに笑った。