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やわたのもり
八幡の森
伊藤 左千夫
「馬醉木 第三卷第一號」根岸短歌会、1906(明治39)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,396 字 · 5 页
板倉の脇へ出る、社に板倉は不調和の感じがした。
二人は帰る方向になって西を向くと、西焼けの残光が未だ消え切らないで、木々の隙間から地平線に明るい、今まで暗いと思った松林の根もとがはっきりと見えた、神楽堂の上には背の高くくねった松が空に自分の影を摸様の如くに押して居るのが一寸面白い、直ぐに出て了うのは如何にも惜しいような気がして、屡々銀杏を振返り、あたりの趣を眺めつつ、偶然の思いつきで、趣味深い時刻に来た仕合を語り合いつつ出る。
不知八幡森も予は幾度か見て居るが、つれの人は始めてであるから、一寸立寄ったけれど、もう暗くなって石牌の文字も判らない、森というは名許で今は全く竹藪に変っている、竹藪の中は闇々として暗いばかり空は青ぎるばかりに澄んで、そよとも動かぬ大竹藪の上には二三十の星が冷に光って居た。
明治39年1月『馬醉木』
署名 左千夫