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はっけんでんだんよ

八犬伝談余

内田 魯庵

「南総里見八犬伝 下」日本名著全集刊行会、1928(昭和3)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,945 字 · 43 页

青空文庫

二人は遠く離れて睨み合っていても天下の英雄は使君と操とのみと互いに相許していたに違いない。が、京伝は文化十三年馬琴に先んじて死し、馬琴はそれ以後『八犬伝』の巻を重ねていよいよ文名を高くし、京伝に及ばずと自ら認めた臭草紙でも『傾城水滸伝』や『金毘羅船』のような名篇を続出して、盛名もはや京伝の論ではなくなっている。馬琴としては区々世評の如きは褒貶共に超越して顧みないでも、たとえば北辰その所にいて衆星これを繞るが如くであるべきである。それにもかかわらず、とかくに自己を挙げて京伝を貶する如き口吻を洩らすは京山のいう如く全くこの人にしてこの病ありで、この一癖が馬琴の鼎の軽重を問わしめる。

馬琴の人物行状の巨細を知るにはかれの生活記録たる日記がある。この日記はイツ頃から附け初めイツ頃で終わってるか知らぬが、今残ってるのは晩年の分である。あの筆豆から推せば若い時から附けていたに違いないが、先年馬琴の家からひと纏めに某氏の手へ渡った自筆文書の中には若い時の日記はない。この分は今、全部早稲田大学図書館に移管されている。震災に亡びた帝大図書館のは、ドコから買い入れたか出所来歴を知らぬがそれより以前に滝沢家から出たものらしい。