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ろくがつ

六月

相馬 泰三

「早稲田文学」1913(大正2)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,673 字 · 37 页

青空文庫

君の帽子がぷんぷらぷんぷら流れてゆくのを見て、それを君だなんて言うものがあったりして、その辺に君の姿がしばらくの間見えなくなってしまったんだからね。……でも、まあ、君の運がまだ尽きなかったのだね。……何しろ素敵に酔っていたんだから」

こんなことを言った。

曽根はそれらの話を一語も聞き洩らすまいと熱心に聞いた。聞きながらもその場合場合の記憶を呼び起そうと一生懸命にあせっていた。しかし、覚えのない部分はあくまで覚えがなく朦朧としていた。それがまた彼を暗い憂鬱に陥らしめた。

下宿へ帰った時、玄関のあたりに主婦の姿が見えなかったので彼はほっと幽かな吐息をした。大急ぎで車屋に賃金を払い、車のけこみへ乗せて来た濡れた洋服の風呂敷包みを片手にぶら下げて、梯子段を走るようにして上った。

部屋は昨日の朝出た時のままに取り散らかっていていかにも不愛相に感ぜられた。新聞が障子のすき間から投り込まれて、あたりに不行儀に散らばっていた。彼は、(あのちびの奴、いくら言ってもこうして行きやがる)こんなことをつぶやきながらそれを拾って机の上へ載せた。が、とてもそれを開いて見る気はなかった。