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ろくがつ

六月

相馬 泰三

「早稲田文学」1913(大正2)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,673 字 · 37 页

青空文庫

が、やはりそのことがうるさく気になって不愉快でならなかった。

灯ともしごろになって、友の松本がひょっこりやって来た。また例によって少し酒気を帯びていた。事によったら、もう少し飲み足すつもりかなんかで、いくらか借りに来たのだったかも知れないが、悲愴な顔をして曽根が寝ているのを見ると、それどころではなく静かに近寄って、

「どうしたのだ、身体の工合でもわるいのか」と憂わしげにたずねた。

曽根は、病気で寝ているのでないことを言い、昨夜のことを告げ「生命の直覚」のいかに淋しいかを物語った。

あとで、松本は自分のはなしをはなした。

「とてもやりきれない。月給でも増してくれなければ、今度こそはいよいよ退社してしまう。なあに、いよいよ窮すればそこに必らずまた新らしい道が開けるにきまっている。――」

こう言った。彼の話によると、彼の勤めている社は実は大へんに可憐そうなことになっているのだそうだ。社に一人悪い奴がいて、社主が地方へ出張している間に社の金を費いこむ、しておかねばならぬ仕事は手も付けずおまけに社主の妻君と姦通したとか、しないとか。松本もそんな地盤の上でいくら働いても働き甲斐もなければ、また働らく精もないというのだ。