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ろくがつ

六月

相馬 泰三

「早稲田文学」1913(大正2)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,673 字 · 37 页

青空文庫

と言って彼はその心持ちをどうすることも出来なかった。

その日の日暮方、彼は疲れ果てて、S―ステーションの構内へ入って来た。彼は一二等待合室へ入って行った。そしてそこのベンチに腰を下すと、ほっと一つ吐息した。

頭の中は綿でも詰ったようにぼんやりしていた。痴呆のように何も思うこともなかった。ステッキにすがって静かに目をつぶると、ひとりでにうとうとと睡気がさして来た。自分の隣席で何か話し合っている旅人の話し声、コンクリートの床の上を忙しげに往き来する人々の足音、戸をあけたてする音、荷物などを動かし運ぶ音、その他いろいろの雑音、そういうものがすべて彼の睡い耳に溶け合って、さながら子守唄のように聞かれた。彼を睡らせるために唄う子守唄のように滑らかに、静かに、心地よく彼の耳に響いて来た。そしてちょうどその時かしましく鳴らして歩いた、汽車の出発を知らせる大ベルの音が、彼の耳には現と睡との間の絶えようとする一線のように幽かに遠く聞かれたのであった。