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くらのすけるす

内蔵允留守

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1949(昭和15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,082 字 · 24 页

青空文庫

五

「よう……」果して、近寄って来た彼等は、大きな声で無遠慮に呼びかけた、「よく精を出して稼ぐのう百姓」

「待て待て、見慣れぬ奴がいるぞ、その男はなんだ爺、貴様の伜か」

「それとも娘の婿か」

「おいそっちの男」と先日応待に出た神谷小十郎と名乗る男が、角張った顎をしゃくりながら呶鳴った、「貴様は眼が見えんのか、武士の前へ出たら冠物をとるくらいの作法は知っておるだろう、笠をとって挨拶しろ」

「そうだ、笠も脱がぬとは無礼な奴だ、やい土百姓、笠をとらぬか」

娘は気遣わしそうに虎之助を見た、虎之助は鍬を休めて静かに笠を脱いだ。小十郎は意外な相手なのであっと云った。

「なんだ、貴様はこの間の」

「さよう、その節は失礼仕った」虎之助は微笑しながら、「……お留守宅を断わられたので、致し方なくこの老人の家に厄介になっております、諸公は水浴びがお上手でございますな」

浪人たちは息をのんだ。……そして一人がなにか云おうとした時、虎之助は再び笠を冠り、鍬を執って静かに土を起こしはじめた。

五

陽ざしにも風にも次第に秋の色が濃くなった。別所家の留守宅からはときおり老僕の弥助が話しに来た、内蔵允の消息はまるで無い、北国筋を廻っているのだろうというのも、弥助老人の想像でしかなかった。