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ふゆのやま

冬の山

木暮 理太郎

「旅」1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,733 字 · 8 页

青空文庫

これでは高い山への憧れが、又その純白な雪のもつ魅力が如何に強くとも、全く泣寐入りの外詮方ないことになる。

勿論冬の高山は、健闘努力して其頂上を窮めた時に、無限の愉悦があり、四周の光景は全然夏と趣を異にした新なる世界を現出するものであるにせよ、劃然と描き出される其輪廓の美と色彩の雄渾とは、平地又は丘陵から山を仰望することを知る者に与えられた礼讃の標的であるといえる。就中輪廓の美は、多く岩石の裸出した雪の山に於て、雄渾なる色彩は黒木の乏しくない長大なる連嶺に於て、極度に発揮される。いつぞや冬の初めに、筑摩山脈の美ヶ原に近い一峰に登って危峭天を刺す槍穂高の連峰が新雪に輝く白無垢に近い姿を眼の前に屏風だちに立ちはだからせているのを眺めたことがある。あれ程綺麗でそして雄勁な山の膚や輪廓を見たことがない。野辺山原から雪の晴れた朝、眉を圧して聳え立つ八ヶ岳の群巒を額越しに見上げて、其瑰麗な姿に満足しない者があるだろうか。松本平から振り仰ぐ北アルプスは言わずもがな。日本海の沿岸から立山連峰を望む時、或は伊那盆地から木曾駒、赤石の両山脈を仰ぐ時、真に息がつまるような感じがする。