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ふゆのうみ
冬の海
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,933 字 · 4 页
潮加減か、波のすぐ下に、背の青い小魚がむれて、のんきそうに、ゆーらり、ゆーらりとゆれて居る。
棧橋の上に、それをねらった二三の漁師が、「あみ」を手にもって、ニヤツキながらそれを上から見下して居る。早く、どっかへ行けばいいにと思って私はその漁師とならんで、その青い小魚の群に気をとられるのである。一体冬の海は、春の海、夏の海にくらべて、厳かな感じをあたえるものである。
冬は、小田原の海が見物だと思う。
もう、ゆだんのならない大波が立って、汀から、八九尺の上まで飛びあがってから、投げつけられた様に、砂の上にくずれ落ちる。
したがってその音も、とうてい、ここいらの五倍六倍ではきかない。
先ず、沖の方から、黒い方な波のうねりが段々こっちにせまって来ると思う間もなく、グーンと空高くはねあがる。
それと同時に、私の身丈の倍でもきかない様な、濃い、黒藍の、すき透る様な、すごく光る屏風が、上えの方に白い線をのせて目の前に立つと、その上の方が、段々と下を向いて来て、終に、砂の上にひどい音と共にめちゃめちゃに砕ける。
その凄い屏風が段々くずれかかって来る時の気持と云ったら、何と云おうか、その恐ろしさと云ったらしらずしらずの間に手を握りつめて居るほどである。