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れつのこころ

列のこころ

宮本 百合子

「大陸」1940(昭和15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,148 字 · 11 页

青空文庫

大抵の雇主は、健康保険三ヵ月の期間中はおいて、それが切れると、あらゆる病を故郷の土さえ踏めば癒ることにして、生れた家へかえしてしまうのだそうだ。黙って汗にまびれた顔を不安にひきしめて、それらの若いものたちも列をつくっていたのだ。列というものの実質の深さ哀れさがここにもあると云えないだろうか。一枚の汽車切符のための列に時代のかげと人生的感想は充ちみちている。

待合や料理店のまわりに大なり小なり列をなしていた高級車は、人目にたってはいけないことになった。自分たちの列を消すことの出来る力をもつ人々というものもあり得るわけだ。つい先日、玉の井辺のうねり曲った小道から狩り出されて警察のひろい板敷の上に並んで教訓をうけている若い者たちの写真が出ていた。こういうときの彼等も列になって頭を垂れて叱られている。此等の若い者たちは、自分たちの歪められた青春の列を消す力も才覚も場所も知っていないのだ。思えば列とは何と一抹の憫然さをも漂わしていることだろう。

列が日常の生活に生じて来る時代の空気は微妙で、列になる前の気分とはおのずと異っているところもいろいろ考えさせる。