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はつこい

初恋

矢崎 嵯峨の舎

「都の花」1889(明治22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,226 字 · 39 页

青空文庫

が心の中でむずついた。もウ棄ててはおかれぬ、そッと隣座敷まで往ッてはいろうか、はいるまいか、と躊躇いながら客座敷の様子を伺うと、娘は面白そうにしきりに何か話していた。自分のことなどは夢にも思ッていないようで。こう思うと気がもしゃくしゃとして来た、すぐに踵を廻らして室へ戻り、机の上へ突ッ伏してただわけもなく泣いていた。しばらく経つと、唐紙の開くような音がして、誰だか室へはいッて来た、見れば姉で、祖母さまがあちらへ来いと言うからおいで、と言ッていろいろ勧めた,自分の本心は往きたかッたので渡りに舟という姉の言葉、すぐ往けばよかッたが、そこがわがままッ子の癖で,――お泣きでないよ、と優しく言われると、いよいよ泣き出したがるようなもので――勧められるほどいよいよすねて,

「厭だと言ッたら厭だい。馬鹿め」

姉はあきれて往ッてしまッた,もう往く機会は絶えた、一層わが身を悔んでわれとわが身に怒ッていると、次の間へ人の足音がして隔ての襖が開いた。姉だと思ッてふり向きもせず、知らぬ貌をしていると、近づいた人は叱るような調子で,

「何をしておいでなさるの」と言ッて自分の手を押さえて、「そんな悪戯をするものではありませんよ」