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はつこい

初恋

矢崎 嵯峨の舎

「都の花」1889(明治22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,226 字 · 39 页

青空文庫

自分はこの時癇癪を起して、小刀で机を削ッていたので……また削ろうとした。

「よすものですよ」と言ッて自分の泣き貌を見て、「おや、どうなすッたの。何を泣いていなさるの。え。え」

自分はこれを聞くと、わけも道理もなく悲しくなッて来て、たださめざめと泣き出した,すると娘は自分の肩へ手を掛けて、机に身を寄せかけて、清しい目を充分に開いて、横から自分の貌を覗き込んで,

「なぜお泣きなさるの、何か悲しいことがあるの。え。お腹でも痛いの。え。え。気分でもわるいの」

自分は首をふッた。

「そうではないの。それではどうしなすッたの、泣くものではありませんよ。よ。よ」

自分は袖でいきなり泣き貌をこすッて、

「お姉さま……あなたは……あの明日もウ帰るんですか……どうしても」

娘はしけしけと自分の貌を見ていたが、物和らかに、

「秀さん、それであなた泣いていたの」

首をかしげて問ねたが、自分が黙ッていたのを見て、自分の頭を撫でようとした、自分はその手をふり払い、何か言ッてやろうと思ッたが、思想がまとまらなかッた。

「お姉さま、あなたは……、あの、あの悲しくも何ともないの……皆に別れるのが」