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わかれのじ
別れの辞
豊島 与志雄
「中央公論」1935(昭和10)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页
いつもの例で、一緒になってまた飲みだしたのである。
茲で少し云っておきたいのは、「笹本」のお上さんのことである。彼女は本名かどうか分らないが皆から「おけい」と呼ばれていて、三十歳前後に見えるけれど、実は四五歳はもっといってるらしく、肥っているわりに肉がしまって、背の高い一寸見られる姿だった。眼に勝気らしい険があって、笑う時に大きな口が目立った。いつも酔ってるか、または酔ってるふりをしていて、よく饒舌った。芝居、料理屋、待合と、どこへでも誘えばつき合うけれど、始終家へ電話をかけて、懇意な客がきてるとすぐに戻ってきた。意外な人と知り合いだった。いつもふだん、黒襟の着物に丸髷を結っていたが、清子が来てからは、清子に日本髪を結わせ、自分は洋髪に結った。大抵の女は、日本髪より洋髪の方が若々しくなるものだが、彼女は不思議にも、鏝をあてないさっぱりした洋髪の方が、どことなく落付いて、云わばマダムらしく見えるのだった。そういうところに、彼女の顔かたちの特長があるとも云える。洋髪になると共に、彼女の態度には何となく取澄したところが出て来た。清子の外に、店には、頬の赤い少女が一人いた。